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相次いで取り付け騒ぎに見舞われる市中銀行に対して、FRBが資金供給を行わなかったわけではない。
だが、その規模は金準備の水準によっておのずと制約された。
しかも、当時のアメリカはイギリスとの激しい為替戦争のさなかにあった。
どちらが先に金本位制から離脱するかに世界の注目が集まっていたのである。
いち早く金本位制離脱に踏み切ったのは、結局、イギリスだった。
一九三一年九月のことである。
金本位国でなくなったイギリスは、極めてアグレッシブに自国通貨ポンド売り金・外貨買い政策を展開し始めた。
そうすることによってポンド安を実現し、輸出競争力を強化するという作戦だった。
典型的な近隣窮乏化政策である。
こうしたイギリスのポンド売り金買いのおかげで、金本位制を維持しているアメリカやフランスからは大量に金が流出することとなった。
金本位国は、金が流出すればそれに見合って国内の通貨供給量を落とさなければならない。
かくして、アメリカは金融システムが資金供給を必要としているまさにその時、金融引き締めを余議なくされるはめに陥ったのである。
実際に、一九三一年後半に向けて、FRBは金利を引き上げて通貨供給量を絞る方向に動かなければならなかった。
このような事態に終止符を打つべく、ルーズヴェルト大統領は就任早々の一九三三年三月に金本位制停止を宣言した。
以降、アメリカの経済政策は不況克服と雇用増進に全力を投入する方向に向かう。
周知のニューディール政策である。
だが、それによって事態が直ちに好転したわけではない。
大型公共事業で当面はリフレ効果が出ても、経済全体を自律的な回復軌道に乗せるには時間を要した。
しかも、その間にもイギリスとの為替戦争は激しく、そして連綿と続いたのである。
お互いに近隣窮乏化政策を取り合っていれば、それだけ、国内的な成長刺激策の効果も削がれることになる。
決着の着かない消耗戦で、お互いに相手の経済を疲弊させる展開が続いた。
この為替戦争に終止符が打たれるには、結局、最後に残った金本位国であったフランスを巻き込む一九三六年九月の「三国通貨協定」の成立を待たなければならなかったのである。
いみじくも、以上の経緯の中には、今日、我々がおかれている状況に関する重要な示唆が含まれている。
第一に、信用収縮問題についてである。
さしあたり、我々は一九二九,三三年のアメリカのような銀行倒産ラッシュには見舞われていない。
しかしながら、あたかもそうであるかのように、国々の金融市場は深刻な資金枯渇に陥った。
そして、ルーズヴェルト政権当時と同じような資本注入政策をもってしても、信用創造はなかなか正常に復しない。
このことの意味するところは何か。
要するに銀行倒産さえ回避すれば、一九二九年恐慌当時の轍を踏むことを免れるとは限らないということである。
第二に、深刻な不況下にあっては、その痛みを他国に転化しようとする近隣窮乏化の応酬が容易に起こる。
英米間における一九三○年代の為替戦争がそのことをよく示している。
今日、この道に踏み込むことを防ぐ体制は世界的に十分整っているか。
そうとはいえないだろう。
現に、国々はお互いに誰が先に経済ナショナリズムの方向に走るかを警戒し始めている。
もとより、一九三○年代の再来は回避しなければならない。
だが、現実問題としては、その可能性の確信をもって否定し切れる状況にあるとはとうていいえないのではないか内生的な力学以上で恐慌の定義とその歴史的実態について考えた。
そこで次に、今、我々が当面している状況の位置づけと意義づけについて考えたい。
今の状況を恐慌と位置づけていいか。
そうだとすれば、この恐慌はどのような恐慌か。
ここまでの検討を踏まえて、まず言えることが二つあると思う。
第一に、今の展開には古典的恐慌としての条件が十分に備わっていると考えられる。
そして第二に、しかしながら今の展開には、これまでの恐慌現象には全く見られなかった特性が備わっている。
まず第一点についてである。
ここでいう「古典的」とは、要するに一九世紀から二○世紀にかけて世界が体験してきた恐慌と対比した時に、それらと共通の力学を内包している、ということを意味している。
今回の展開は間違いなく「内生的破綻型」である。
内生的な力学によって、経済活動の歪みと膨張が極限に達し、そのことが劇的な調整をもたらした。
そのメカニズムは一九二九年恐慌と共通しているし、一九世紀のイギリスを周期的に襲った一連の恐慌とも基本的に合致している。
金融市場において発生した衝撃が実体経済に強い縮減効果を及ぼすという点でも、これまでの古典的恐慌の事例との一致度が高い。
金融証券化が生み出す合成の誤謬の中で、市場参加者たちがお互いにリスクを押しつけ合った。
我勝ちに危ない橋を渡る金融機関たちは、そうすることで、結局のところ、危ない金融商品のいわば「生産過剰」を促していた。
過剰生産化した金融商品に買い手がつかなくなり、それらが値崩れを起こし、市場が崩落した、この流れは古典的恐慌のそれに合致している。
世界同時多発性このように考える限り、今回の展開には、古典的恐慌と呼ぶに足る基礎的な条件がひとまず整っている。
ただ、そう言い切るだけで済ませるには、違和感も残る。
歴史との関わりでみるとどうか。
前節でみたイギリスの一八二五年恐慌、あるいは一九二九年のニューョーク証券恐慌と対比した時に、今回の展開にはかなり特異な点がある。
それが今回の恐慌の大きな特徴でもあるのだが、それらは大別して三つある。
第一に、今回の恐慌は世界同時多発的に進行している。
第二に、この恐慌はモノとカネが決別する構図の中で展開している。
そして第三に、この恐慌は管理通貨制度の下で発生した。
これらの三点について、順次みていこう。
世界同時多発性については、多言を要しない。
そもそも、今日ほど地球が一体化し、全てのことがまさに時空を超えて同時進行する時代は今までなかったわけである。
したがって、今回の展開は、おのずと、これまでの恐慌が持ち得なかった広がりと同時性を持っている。
これは当然だ。
事実、一九二九年一○月のニューヨーク株式大暴落から、イギリスで本格的な金融恐慌が発生して混迷が極限に達するまでには、およそ二年の時を要した。
一八二五年の場合には、そもそも、恐慌がイギリスの外に波及するルートは極めて限られていた。
ところが、いまや、全ては文字通りリアルタイムで進行する。
アメリカのリーマン・AIGショックは、瞬時にして世界を震憾させた。
世界の株価は同時に下がった。
二週間後には欧州で主要銀行が相次いで危機に陥り、生命維持装置作戦がフル稼働状況になった。
震源地からの遠さをいいことに高を括っていた日本でも、あっという間に恐慌がもたらす「最悪の経済状態」が身にしみるようになった。
連鎖のグローバル時代は、恐慌の連鎖についても、ほとんど時間差の発生を許さない。
モノとカネの決別状態第二に、モノとカネの関係についてである。
元来、資本主義経済の中ではモノとカネは一体になって動くはずだ。
だからこそ、「過剰生産に基づく資本主義固有の矛盾が爆発」することになるわけである。
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